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オークハウス吉祥寺2
インタビュー:萩谷さん(オークハウス吉祥寺2に在住)
シェアハウス在住の劇作家として、私が劇を書き続けている理由
創作活動をするなら、静かで独りになれる場所を探すべき、ですよね。でも、本当に芸術に必要なのは、さまざまなバックグラウンドを持った人に囲まれたシェアハウスのような場所なのかもしれません。
今回で第7回目となった、オークハウス住人インタビュー。登場するのは「オークハウス 吉祥寺2」にお住まいの脚本家・演出家、萩谷 至史(はぎや・よしふみ)さんです。萩谷さんは慶應義塾大学の大学院で分子生物学を研究したあと、卒業後に演劇の脚本家・演出家になった異色の経歴の持ち主。第16回杉並演劇祭(2019年)では優秀賞を受賞し、今注目される若手のクリエイターです。今回はひとりの時間があるアパートやマンション暮らしを選ばず、あえてシェアハウスで創作活動を続けている理由をお伺いします。
萩谷至史/Hagiya Yoshifumi
劇作家、演出家。1989年生まれ。
茨城県出身。慶應義塾大学薬学研究科修了。専門は分子生物学。卒業後、演劇学校である座・高円寺劇場創造アカデミーに入学。1年間、舞台芸術の創作理論や実践法を学ぶ。その後、独立して個人ユニット「mooncuproof」を立ち上げる。2019年、脚本・演出を手がけた作品「2019、Tokyo、それから、あるいは→」で第16回杉並演劇祭において優秀賞を受賞。
シェアハウスは何もかもが異なる人たちが住んでいる空間
今されているお仕事や活動について教えてください
脚本家と演出家として活動しているほか、商品などをテーマに短いお話を書くストーリーテラーという仕事もしているので、合わせると主に3つの仕事をしていますね。
脚本家は主に劇の台本を書く人のこと。劇のストーリーや設定、セリフを決めたりする仕事のことです。脚本家が作った台本を実際の舞台にするために、役者とコミュニケーションをとりながら、実際に劇を形にしていくのが演出家の仕事です。
mooncuproof(https://hagiya4423.wixsite.com/mooncuproof)という自分で立ち上げた劇団の主宰を務めているのと、板橋区で「板橋ファイト」という劇場付きの作家もしています。市民ミュージカルの演出や演技指導をすることもありますね。
脚本家と演出家の違いは庭師を例にとるとわかりやすいかもしれません。劇作家は、庭の中のこの位置にライオン、鳥、人の像を置くと決める全体の構成や設計図を作る人のこと。演出家は、職人と相談しながら彫刻を掘り、庭に置いていく現場監督のようなイメージです。
世の中にはさまざまな脚本家・演出家がいるのでスタイルは人それぞれですが、私の場合は脚本の段階で細かいところまでは決めずに、役者さんと具体的な演技を考えながら細かいところを作り込んでいくことが多いです。脚本が完成した時点で演劇のほとんどが完成しているようなイメージを持っている人もいるかもしれませんが、私が企画する劇の場合は、脚本ができても全体の50%くらいしか完成していないんです。
脚本ができあがった後は、演出の段階に入るのですが、私の演出家としてのスタンスは「役者とコミュニケーションを取りながら、台本のセリフを定義していくこと」だと思っています。
例えば、「おいしいね」というセリフがあったとして、「この”おいしいね”ってどういうイメージだと思う?」といったやりとりを役者としながら、役者が考える「おいしいね」を解釈して舞台に取り入れていきます。同じセリフをどう解釈するか、どう表現するか、は役者によって異なるので、同じ脚本でも役者によって全く異なる演劇が生まれるわけです。
私が住んでいるシェアハウスは、国籍は違えば、職業も違うし、趣味、経験、仕草、それぞれの常識まで何もかもが異なる人たちが住んでいる空間です。そこは、全く予期しない形で、日々刺激を受ける場所でもあるんです。
私の脚本家・演出家としての創作スタイルは、このシェアハウスに住んでいろんな人たちに刺激を受けることで少しずつ確立されていったと思います。
シェアハウスは脚本家・演出家として学びの宝庫
シェアハウスに住んでいて、具体的にどんな刺激を受けますか?
歩き方やドアの開け方まで、誰でもそれぞれ個性が出ています。些細な所作なのですが、そんな行動に現れる個性は、演劇においてひとりひとりの役を作り込む上ではとても大事なものです。脚本家や演出家はそういった動きを意識的に見て勉強しなければいけないのですが、シェアハウスでの生活は、そんな個性ある行動の宝庫と言えます。
シェアハウスにある程度住んでいる人にとってはよくわかる話なのですが、フライパンを使う音や、帰ってきたときの足音で、姿が見えなくても誰がいるのかわかることがあります。音だけで個人が判別できるなんて、かなり個性的な行動をしているはずなのですが、その個性的な行動や仕草を因数分解して考えていくうちに、演劇において重要な役者の動きになったり、台本に書かれている仕草を行動で表現したりする大事なボキャブラリーになるんです。
あとは仕事柄、一人になることが多いので、話し相手がいつもいてくれるのは助かりますね。「気が向いたときにリビングに行けば誰か話せる人がいる」という環境は精神衛生的にもありがたい環境だと思います。さまざまな人と話すことで、創作に関連する新しいアイデアを得ることもありますよ。
シェアハウスのドミトリーに住まれているそうですが、どのような環境ですか?
このハウスでは、リビング・ダイニング・シャワールームといった共有で使うスペースの他に、それぞれの住人のプライベートルーム(個室)があります。
ほとんどの個室は1〜2人用なので、個人のスペースと共有スペースの境目をしっかりと分けることができるのですが、1つだけ、4人で1部屋の場所があります。それがドミトリーです。
現在はその4人用の寝室に住んでいるのですが、ホステルのドミトリーのようにルームメイトが3人いて、ベッドも2段ベッドです。
もともとシェアハウスに住む人はおもしろい方が多いのですが、その中でもドミトリーに来る人は、アーティストや個性的な人など、作家業の刺激になる方が多いですね。
できるだけ多くの人と仕事をしてみたい
演劇の脚本家・演出家としてどのような俳優と仕事をすることが多いですか?
本当にさまざまな人と仕事をすることが多いです。演劇の俳優はもちろんですが、和楽器の演奏者やダンサー、神主さんまでが加わって、日本の神話をテーマにしたパフォーマンスをしたこともあります。できるだけ多くの人と仕事がしてみたいので、決まった人とだけ仕事をするのではなく、プロジェクト単位で新しい人たちと仕事をするようにしています。一度作ったチームを解散するのは名残惜しい面もありますが、新しいプロジェクトで新しいチームを集めるのは新鮮で刺激的でもあります。
萩谷さんが主宰されている劇団「mooncuproof」ではオーディションもしているとお聞きしました。どんな役者と一緒にお仕事がしたいと考えていますか?
オーディションの際にも、実際の劇の舞台のような場を作って候補者とお話をすることが多いのですが、ある時、椅子をランダムに配置してオーディションをしたことがありました。
来てくれた方に、どこでも好きな席に座ってくださいと伝えると、どの椅子に座るかは、どの人もそれぞれ違うわけです。
あるオーディションで、こちらを向いていない窓際の椅子に腰をかけて外を眺め始めた方がいました。どうしてそこに座ったのかと聞いたら、「今日は空が綺麗だったから」と自然に答えたんです。たいていの人は自分を良く見せるために「偽りの自分」を演じてしまうのですが、この方は、自分のことを自然に、素直に表現できる方だと思いました。
小さな劇をしようとするだけでも、役者もスタッフも、感覚も解釈の仕方が全然違う人が集まる。そういう異なる感覚を持つ人たちの考えを活かしながら作るほうが、劇の台本を書いた時には想像もできなかった面白いものができます。
次に企画している劇は、人どうしの違い自体をテーマにして、その違いとどうやって生きていくかを考える劇を作りたいんです。戦争やテロ、人と人との考え方や信じるものの違いが、人と人の関係の亀裂になることはとても多い。人間はみんな同じわけではないので、そんな違いと生きていくにはどうしたらいいんだろうと考える機会になればと思います。
最後に、萩谷さんの今後の抱負や、読者へのメッセージがあればお願いします
私がシェアハウスに住もうと思ったきっかけは「英語力をブラッシュアップするため」でしたが、実際に住んでみると、創作において刺激を受けたり、それによって創作のスタイルまで変わっていったりと、予想以上に影響を受けることが多かったように思います。ハウスで新作の劇の告知をすると、実際に見に来てくれるハウスメイトもいるので、ほんとうにありがたいなと思います。
イギリスの演出家でピーター・ブルックという人がいます。彼は「人と想像力があれば、演劇はそれだけで足りる」と言っています。さまざまな人の多様な想像力を活かして、私にしか作れないようなユニークな劇を作るのが、現在の目標です。
シェアハウスの仲間と本当に大事な関係を築かれているんですね。これからも創作活動をがんばってください!今日はありがとうございました。
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取材協力:萩谷 至史 さん
■ 萩谷さんが脚本・演出を手がけた今後の劇の予定はこちら
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